亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~


「………目が覚めたか?」


聞き覚えのある声が聞こえた。

眩しくて何度も目を瞬かせながら、脇に目をやる。





「…………」

「足に痛みは無いか?……話せるか?」





あの時の少女がそこにいた。大きな黒い獣も側に横たわり、マリアをじっと見ている。

明るい中で見た少女は、驚く程幼かった。
10歳かそこらではないだろうか。

あどけない表情は、何処か凛としていて、自分よりも大人びて見えた。




「………私…………生きてる?」

「……馬鹿なことを言うな。死人と話せるわけがないだろう」


薄い笑みを浮かべる少女。



マリアは木陰の下に横たわっていた。

辺りは焼け崩れた家屋や、真っ黒な焼死体で溢れていた。



………見たところ、この村で生き残ったのは自分だけのようだ。


「………何も無いのね」

「……群れでの襲撃だったからな。この近辺の村は全滅している………………足はどうだ?」

「………足?」


ふと、無い筈の右足に視線を移した。


長いスカートの裾に、ゆらりと動くものが見えた。









………蔓?………細い…枝?


マリアは上半身を起こした。
不思議な程、身体は軽く、難なく動いた。
< 475 / 1,150 >

この作品をシェア

pagetop