亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
「………目が覚めたか?」
聞き覚えのある声が聞こえた。
眩しくて何度も目を瞬かせながら、脇に目をやる。
「…………」
「足に痛みは無いか?……話せるか?」
あの時の少女がそこにいた。大きな黒い獣も側に横たわり、マリアをじっと見ている。
明るい中で見た少女は、驚く程幼かった。
10歳かそこらではないだろうか。
あどけない表情は、何処か凛としていて、自分よりも大人びて見えた。
「………私…………生きてる?」
「……馬鹿なことを言うな。死人と話せるわけがないだろう」
薄い笑みを浮かべる少女。
マリアは木陰の下に横たわっていた。
辺りは焼け崩れた家屋や、真っ黒な焼死体で溢れていた。
………見たところ、この村で生き残ったのは自分だけのようだ。
「………何も無いのね」
「……群れでの襲撃だったからな。この近辺の村は全滅している………………足はどうだ?」
「………足?」
ふと、無い筈の右足に視線を移した。
長いスカートの裾に、ゆらりと動くものが見えた。
………蔓?………細い…枝?
マリアは上半身を起こした。
不思議な程、身体は軽く、難なく動いた。