亡國の孤城 ~フェンネル・六年戦争~
「そりゃあもっと面白い。……総団長、御指名入りましたよー。相手してやんな」

「………お、おい!?」

リストはキーツとローアンを行ったり来たりと見やる。

オーウェンは一人、口笛を吹きながら軽快な足取りで隅の方へ向かった。その壁に立て掛けていた数本の剣から一本を掴み、ローアンに向かって投げた。


…ガシャン、と音を立てて足元に落ちた剣。

「………あの………真剣でか……?」

「………当たり前だ。木剣など恥ずかしいだけだろう」

ローアンは剣の柄と地面の僅かな隙間にブーツの爪先を引っ掛け、軽く蹴り上げて剣を手に取った。


スラリと鞘から抜き出された剣先が、キーツに向けられた。

「………こうやって刃を交えるのはあの襲撃以来だな?……今回は“闇溶け”無しだ。……生身の人間同士、フェアにいこうか」

にやりと意地の悪い笑みを浮かべるローアン。
………キーツが困り果てるということを分かっていながら……。

………この女狐……確信犯だ。

いつの間にかオーウェンの元に下がっていたリストは内心でそう思った。

案の定、総団長殿は現在、混乱度マックスだ。そんな事などそっちのけで、ローアンは剣を構えたままにじり寄って来た。

「………どうした?……遠慮は要らんのだぞ。………相手がローアン姫では…手も足も出ないか?」

「…………止めてくれ……俺は……君に剣を向けるなど………」

「…聞いて呆れるわ!」



一気に距離は縮まった。







ローアンは女であり、やはり男よりも力は無いが、瞬発力や速さは並の兵士よりも卓越している。
< 827 / 1,150 >

この作品をシェア

pagetop