龍とわたしと裏庭で⑤【バレンタイン編】
レッカー車が来て車を運んでもらい、常盤さんを送った後、親父はフウッとため息をついた。

「あの常盤代議士にはもったいないくらいの息子だな。頭も切れるし、ルックスもいい」


お父さんの方は見た事ないから分からない。

ポスターでは、にこやかな普通のおじさんだけど。


「常盤さんがあんなに喋るの初めて聞いた」

「自分を作っているんだろうな。親父さんを油断させて取り入るために。なかなかの野心家だ」

「苦労人みたいだったね」

「苦労したんだろう。経済的には恵まれて育ったろうが、正妻の子供を押し退けて今の地位まで来るのは並大抵の努力じゃなかったはずだ」


あー わたし、この間結果的に常盤さんの仕事の邪魔しちゃったんだよね。

胸がちょっと痛んだ。

ゴメンね

常盤さんが選挙に出る時は、応援するから。


「あのまま変わらないでいてほしいな」

親父が言う。

「どういう訳か政治の世界に入ると、人は変わってしまう。誰もが最初は高い理想や思想を持っているのに」


ふと、わたしに『そのままでいい』と言う圭吾さんを思った。


「純粋なままで大人にはなれないってこと?」

「そうかもな。それでもなお、純粋な思いを持ち続けようとする事はできるんじゃないか?」

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