龍とわたしと裏庭で⑤【バレンタイン編】
どんなに上手に隠れても

「いい? これからわたしはお台所に篭ります」

バレンタインデー前日の夜、わたしは圭吾さんに宣言した。

「何があっても絶対覗かないでね」


圭吾さんはパチパチと瞬きした後、

「鶴の恩返し?」

って言った。


「志鶴の恩返しよ」

「何、作るの?」


バレンタインデー用っていうのはバレバレなんだけど、それでもわたしは小さな抵抗を試みた。


「もちろん布よ」

「台所で?」

「ええ。だって機織り機はあそこにしかないんだもの」

「えーと、確かその話は禁を破って覗いてしまうんだよね?」

「そうよ。そして娘は鶴に戻って去ってしまうの」


圭吾さんはブルッと身震いした。

「僕にとっては、どんな怪談より怖いね。絶対に覗かない」


よしっ!


「布は後で見せてくれるのかい?」


「明日ね。一晩寝かせなきゃダメなの」

わたしは、できるだけ真面目な顔をして言った。

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