屋上で

～○こぼれ話○中学時代の冷時～




俺が初めて波里千春という女子を意識したのは、ほんの些細な出来事からだった。


それまでは可愛い顔立ちをしているのに何故かクラスでは浮いている不思議な奴だと言う印象しかなかった。


ときどき俺の視界に入ってくる、たったそれだけの印象だった。




そんなある日、本屋で自分の好きな週刊誌を立ち読みしていると、彼女を見かけた。どうやら彼女も自分の本を買いに来たそうで懸命に新刊コーナーをうろついては目当ての本を探していた。


そして目当ての文庫を見つけたのか、嬉しそうに本を手に取ると彼女はそのままレジへ直行し、店を出て行った。


店員さんにありがとうございました、と定例の文句を言われると彼女は可愛い表情で笑顔を返し、ありがとうございますと言った。



その表情は俺の中でひどく印象に残り、脳裏に焼き付いて離れなかった。




そして悪趣味だとは思いながらも彼女が手に取った本の題名を見てみると、話題の恋愛小説だった。何でも美しい描写に、ありのままの透明な心理描写は、読者の心を射止める…らしい。そう、テレビで見た。