今までの自分にサヨナラを


流れていた沈黙の中、彼の穏やかな声が私の鼓膜を、否、心を震わせた――。


落ち着いたやわらかい声に綺麗な言葉。


でも、私の心は動揺に震える。


彼の優しい笑顔が見られない。


胸がどうにも苦しくなる……。


私のコントローラーを握る手は重くなって、車椅子はピタリと止まった。


しかし、彼は気付かずゆっくりとした歩みで言葉を紡ぎ続ける。


「諦めかけてたけど、まさかここで会えるなんて、奇跡だよね――」


彼が紡いだ言葉は、眩しく麗しく煌めいた。


まるで宝石そのもののように――。



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