今までの自分にサヨナラを


ちくりと、胸が痛む。


……少し思い起こしただけなのに。


その時、冷たい風が容赦なく身をさした。


私は、疼く胸に気付かれぬよう手をあてて、目蓋を閉じる。


まるで、あの記憶の扉を、閉ざすかのように。


……なのに、いつも彼はそんな私の邪魔をする。


「ねえ、さゆ。この庭園すごくいいね」


上から降ってくる声はとても明るくあたたかで、見なくても笑顔だって分かる。


そう、例えるなら、彼は太陽――。


私にはこの身体のために、諦めてきた、凍らせてきた思いがいっぱいある。


それが私の、自分を守る唯一の方法なの。


だから、彼と私は相反する人なんだ。



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