会いたい

「とおる――」

 そう 確かに私は聞いた。
 透の唇から洩れた、声のない言葉を。
 いつもいつも、私が怒ったり哀しくなったりすると、透は慰めの言葉の代わりに、それを言うのだ。
 透がいつも私にくれた言葉だったから、声が届かなくても私の記憶に、そして心に、届いた。

愛してるよ

 とても鮮明に記憶は甦り、聞こえないはずの声さえ呼び戻した。
 いつでも、透は私に一番大切なものをくれるのだ。
 そして最後に、とびきりの贈り物を残していった。

 これから先、たった一人でも生きていけるだけの、あざやかな想い出を。

< 118 / 120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop