愛・地獄変 [父娘の哀情物語り]
 菓子作りでも、失敗の連続でございました。
折角練り上げた生地に、あろうことか更に水を足してしまいまして。
餡にしましても、ほど良い甘さに仕上げていたものを。
これも又、お恥ずかしいかぎりでございます。
砂糖を足してしまい、まったくのお子様向けになってしまいました。

形を整える折も、つい娘のことを思い浮かべてしまいます。
うさぎを作っているつもりが、耳が無いのでございます。
耳が無くては、うさぎとは申せません。
桃の形を作ろうとして、栗になってしまったり。
まったくの、上の空でございました。

 そうそうお話しておりませんでした、朝食のことでございます。
妻が寝込んでからは、止むなく麺類にしております。
うどんやらそばで済ませます。
いえいえ自炊が自慢なのではございません。
そのように先回りされましても。

実は、朝食をニ度頂いているのでございます。
いえ、お腹が空くからというわけではありません。
仕込みに一段落を付けての、ひと休みとしており・・。
申し訳ありません、有り体に申し上げます。

 娘でございます、娘が、娘が・・申し訳ございません。
つい込み上げてきまして。
あの、あの朝のひと時が、私の人生の華でございました。
なので、思い出す度に落涙してしまうのでございます。
さ、気を取り直して、お話を続けましょう。

二度の朝食と申しますのは、娘からの提案でございます。
「朝、一緒に食べてよ。
お母さん寝込んでるから、一人ぽっちなの。
ちっとも美味しくないの、一人だと。
あたしが作ってあげるから、お父さんも食べてよ。
お母さんも、喜んでくれるから。」

 妻が喜ぶ?どういうことだ、それは。
あぁ、そうかそうか。
娘一人の食事が可哀相だから、仕方なく私にお相伴させようということか。
自分が起きたら、また私をのけ者にする腹でございましょう。
ふん、いいさ。
娘が私と一緒が良いと言ってくれるさ。
「お父さんの方が良いわ。」と言われた時の妻の顔が見たいわ。
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