愛・地獄変 [父娘の哀情物語り]
 しかしながら、待てど暮らせど、でございます。
しびれを切らしたわたくし、百貨店に再度電話をかけました。
「大変申し訳ございません。
どうやらお客様はねお帰りになられているご様子でございます。
あれから二度ほど店内放送を致しましたが、ご本人様からのお申し出がございませんでした。」
「いやしかし、昼に戻ると、遅くとも二時には戻ると申した妻が・・。」とまあ、押し問答を繰り返しましても詮無いことでございます。
で、妻の帰りましたのが、夜の七時過ぎでございました。

「遅かったね、心配しましたよ。」
「ごめんなさいね。
女学校時代のお友達と、百貨店でバッタリ出会いましてね。
で、数人のお友達に電話をしてね即席の同窓会を開くことに。」
 明るく笑いながら申します。
嘘だとは思いませなんだが、なにか釈然と致しません。

「でもね、百貨店に電話をしたけれども、放送は流れなかったのですか?
何時頃だったか・・三時近くだったか・・」
「あらごめんなさい。
百貨店には、お昼を食べるまででしたの。
お友達のお宅に集まることにしたものですからね。
で、ついつい長話しになってしまいましてね。
お夕飯を一緒にしまして。
えぇえぇ、あなたにはお寿司を買ってまいりましたから。」

「電話の一本でも入れてくれれば、わたしだって・・」と愚痴をこぼしましたが、妻が両手をついて謝りますので、まあそのままに・・。
といいますのも、初めてなのでございますよ。
あの折は、もう慌てはためいてしまいました。
「そ、そんな。手を上げてください。
わ、分かりましたから。お嬢さまにそんなことをして頂くわけには・・。
あ、いえ、お嬢さまじゃなくて・・」
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