愛・地獄変 [父娘の哀情物語り]
 勿論、自分自身に言い聞かせてはおりました。
「血はつながらなくとも、娘だ!」と、毎夜心内で叫んでおりました。
しかし、崩れてしまいました。
脆いものでございます、親娘の絆は。
もっとも親娘は親娘でも・・・。

 それからのわたしときたら・・・。
娘の入っていることを承知で、風呂場を覗いてみたり電気を消してみたり、とまるで子供でございました。
娘の嬌声に、無上の歓びを感じているのでございます。
初めの内は間違いと思っていた妻も、度重なるに連れ疑問を抱き始めたようでございます。
わたくしの行動に目を光らせるようになりました。
そんな時でございました、あの、忌まわしいそして恐ろしい夢を見ましたのは。

 ある夜のことでございます。
わたくしと妻は、一つの布団におりました。
が、急に妻が起きあがるのでございます。
申し訳ありません、夢でございます。
ご承知おきください。
未だ、別の部屋での就寝でございます。

 わたくしの腕の中からすり抜け、誰か男の元に、走っていくのでございます。一糸まとわぬ姿で、その男にすがりつきます
。わたくしは妻を追いかけると共に、その男を見ました。
とっ!何ということでしょう、あの青年だったのでございます。
娘の婚約者でございます。

 わたくし自身が、そうなることを望んでいたが為のことかもしれません。
その時、わたしがどんな思いで妻を連れ戻したことでしょう。
とても、これだけはお話し致すわけにはまいりません。
唯その後、年甲斐もなく激しく燃え、嬌声を発しながら、力のあらん限りをつくし荒々しく、抱きしめておりました。 

 ふと気が付きますと妻の身体に、鳥肌が立っております。
心なしか痙攣を起こしているようにも見えます。
わたくしは、思わず手の力を緩め顔を上げました。
と、何ということでしょう、これは。
あぁ、お願いでございます。
わたくしめを、このカミソリで殺してください。
もうこれ以上の苦痛には耐えられません。
そう、そうなのでございます。
妻だった筈が、娘だったのでございます。
わたしは、犬畜生にも劣る人間、いや、鬼畜でございます。
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