死が二人を分かつまで
「今まで育ててやった俺達より、やっぱり本当の親の方が良いか」


しばらくしてさとしは、意を決したように顔を上げ、言葉を発した。


「伯父さん達にはとても感謝しています」


言いながら広と知子を交互に見る。


「僕を引き取ってくれて、居場所を与えてくれて、毎日美味しいご飯を食べさせてくれて……」


その言葉に、知子はハッとしたようにさとしを見た。


「どんなに感謝してもしきれません」


さとしは深く呼吸した。


「伯父さんが、そういう世界が大嫌いなことは充分承知しています。僕がその世界でやっていけるかどうか、正直不安です」


「だったら……」


「でも」


彼は勇気を振り絞って訴える。


「それでも、やってみたいんです」


それは、さとしにとって生まれて初めての反抗だった。


いつも広の示す道を歩いて来た。


我を通してまでやりたいと思うものもなかった。


しかし、今回は。


今回だけは、引き下がってはいけないと思った。


「そうか」


広は明らかに相手を拒絶する意志が伺える、暗い冷たい声音で言葉を吐き出した。
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