死が二人を分かつまで
「どこ行くの?さとしちゃん。もうすぐ夕飯だよ」

「ちょっと遊んでくる。すぐ帰るから」


言いながら靴を履き、玄関を出ると、さとしは家の前の道を夕日に向かって歩いて行った。


近くの河原まで来ると、グラウンドで親子が楽しそうにキャッチボールをしていた。


それを横目で見ながらさとしは橋の下まで歩を進め、壁に向かってボールを投げ始める。


ふと、足音が聞こえて振り返ると、そこには知子の姿があった。


心配であとを追い掛けて来たらしい。


「さとしちゃん…。私が相手してあげようか?」

「ううん。大丈夫」


一人でボール遊びを続けながらさとしは声を発した。


「あのね、壁にむかって投げると、ボールがあちこち飛んで、すごくおもしろいの」


その言葉にこの上ない切なさが込み上げて来て、知子は思わずさとしに駆け寄り、小さな体を強く抱き締めた。
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