記憶混濁*甘い痛み*

……ふと気付くと、耳障りな電話のベル。


けれど受ける事のない電話のベルは留守電に変わり、母親の璃紗子の声が流れてきた。


『和くん?和くん、いるんでしょ?携帯も会社も…留守番電話ってどういう事?どっか具合悪いの?ねえ…和くん?あたし、和くんの事が心配なのよ。友梨ちゃんより…ごめんね、今は、和くんが心配なの。一度、日本に帰ってこない?友梨ちゃん抜かして…条野家と深山咲家と、もういっかい話し合いしよ?友梨ちゃんじゃなく、あんたの心も身体も限界でしょ…?ねえ…和音…』


「……ウルサイ」


璃紗子の問いかけに、和音の唇が動く。


『和音…理性的に考えてみてよ?』


「…ウルセーよ」


『友梨ちゃんが…』


「……黙れ」


『あんたの元に…』


「黙れ。黙れ黙れ!」


『戻れたとして…』


「……やかましい!!」


電話線を引きちぎり電話を床に投げ捨てる。


くすんだ板張りの殺風景な床に、洒落た電話の部品が壊れて転がってゆく。


「……誰にも邪魔させやしない……」


彼女を愛する……この気持ちだけは。






例えそれが、報われない想いだとしても------
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