記憶混濁*甘い痛み*
出来る限り誰にも会わないように、周囲を伺いながら、友梨は病院の南側にある無人の教会に走り込んだ。
「……私…どうして…あんな……」
静かな礼拝堂に入り、ワンピースに染み込んだ雨水をポタポタと乳白色の石の床の上に滴らせながら、友梨は十字架の下で跪きロザリオを手にして息を整える。
深山咲友梨に戻る程に、自分の行動の穢れに震え、涙が溢れて止まらなくなる。
「どうして……どうして……私は……いつから、あんな……」
友梨は混乱していた。
ロザリオの石を数える両手が震え、子供の頃から唱え続け、全て暗記している筈の祈りの言葉も出てこない。
まだ消えない、自分の肌に残る甘い感覚を恐れている。
「イエスさまマリアさま、友梨は……いつから、こんな……」
抱きしめられて…優しく撫でられた髪が心地よくて、意識は目の前の男に奪われた。
毎日当たり前のように抱きしめられているお兄様の腕の中よりも、条野さんの腕の中の方が居心地が良いなんて
神の前で永遠を誓った愛に背く罪悪だ。
ふっと肌に熱が走り、腕が引かれ……抱きしめられて、唇を重ねるのが、あまりにも自然すぎた。
でも、それは