記憶混濁*甘い痛み*

「…イタイ…」


和音に抱かれたまま、友梨は頬を歪ませ、自分の肩でクイッと、顔の血を拭った。


拘束時に暴れた為に、腕だけでなく、可愛い顔にも首にも傷がつき、血が流れている。


ヘモグロビンが少なめな為、赤と言うよりは朱色に近い友梨の血液を見て、和音はやるせない顔をし、友梨をきつく抱きしめる。


すると友梨はトロンとした顔になり、ふう…と、呼吸を楽にした。


------そして。




「…かずねせんぱい…?」




と、呟いて、気を失ってしまった。


和音は切なそうに友梨の涙を拭ってから、彼女を横にすると


「治療の続きをお願いします」


と、言って、友梨から離れ、芳情院に


「……目が醒めたら、友梨の夫はあなたですよ芳情院さん。彼女の事、頼みます」


と、告げた。


「……条野?今、友梨は」


「記憶混濁時に……多分一時的にオレの記憶が開いただけです。意識を失った時点で……彼女は深山咲に戻る」


「オレはオマエに……友梨を返せないかもしれない」


床に崩れたまま、芳情院。



「そうなるかどうかは…眠り姫次第だ…オレとあなたが…決める事じゃない」


そう言って和音は治療を受ける友梨に視線を向けると、苦しそうに唇を噛んだ------

< 83 / 110 >

この作品をシェア

pagetop