記憶混濁*甘い痛み*
「…イタイ…」
和音に抱かれたまま、友梨は頬を歪ませ、自分の肩でクイッと、顔の血を拭った。
拘束時に暴れた為に、腕だけでなく、可愛い顔にも首にも傷がつき、血が流れている。
ヘモグロビンが少なめな為、赤と言うよりは朱色に近い友梨の血液を見て、和音はやるせない顔をし、友梨をきつく抱きしめる。
すると友梨はトロンとした顔になり、ふう…と、呼吸を楽にした。
------そして。
「…かずねせんぱい…?」
と、呟いて、気を失ってしまった。
和音は切なそうに友梨の涙を拭ってから、彼女を横にすると
「治療の続きをお願いします」
と、言って、友梨から離れ、芳情院に
「……目が醒めたら、友梨の夫はあなたですよ芳情院さん。彼女の事、頼みます」
と、告げた。
「……条野?今、友梨は」
「記憶混濁時に……多分一時的にオレの記憶が開いただけです。意識を失った時点で……彼女は深山咲に戻る」
「オレはオマエに……友梨を返せないかもしれない」
床に崩れたまま、芳情院。
「そうなるかどうかは…眠り姫次第だ…オレとあなたが…決める事じゃない」
そう言って和音は治療を受ける友梨に視線を向けると、苦しそうに唇を噛んだ------