祐雫の初恋

 祐雫は、初めて出逢った時の白いワンピースを着ていた。


 あの夏以来、良き想い出とともに仕舞っていたワンピースだった。


 祐雫は、慶志朗に逢えない日々、

祐里から習って、ワンピースの裾周りに夏の想い出を蘇らせながら、

虹色の糸で一針一針刺繍を施した。


 虹色は、祐雫にとって、初恋の色だった。



 久しぶりに慶志朗と逢った祐雫は、まさに虹色の心地に包まれた。



 話したいことがたくさんあったはずなのに、何も言葉が出て来ない。


 ただ、運転している慶志朗の横にいるだけで、

しあわせが溢れて、胸がいっぱいになる。



「楽しい夏休みを過ごしていますか」


 慶志朗は、言葉少ない祐雫のことが気になった。


「祐雫さんのことだから、勉学に励んでいるのでしょう」



 慶志朗は、冗談のつもりで言ったのだが、祐雫は、コクリと頷いた。



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