祐雫の初恋
祐雫は、森の散策に出かけることにした。
祐雫は、紫乃が避暑地で着るために、
丹精込めて縫ってくれたピンタックとフリルが織り込まれた
白いワンピースを洋服箪笥から取り出した。
(森のお散歩でしたら、
どなたの目にも触れることはございませんでしょう)
と、まだ一度も手を通していないことを思い出して、
紫乃の気持ちに応えようと身に付けた。
「祐嬢ちゃまは、空色の素朴なお召しものがお好みでございますが、
時にはこのように可憐なワンピースを
お召しになられてはいかがでございますか。
久世(くぜ)の香(かおり)お嬢さまに劣らずお美しゅうございます。
是非とも避暑地でお召しくださいませ」
祐雫は、出来上がったワンピースを手渡してくれた時の
紫乃の言葉を思い出していた。
久世香(くぜかおり)は、祐雫より三つ年上で、
生まれた時から花のように美しく、その華やかさは群を抜いていた。
祐雫は(香お姉さまに太刀打ちできるはずがございません。
それに花びらのようなワンピースは私に似合いませんのに……)
とこころの中で呟きながら、
森の涼やかな空気の中を歩いて行った。