定義はいらない
松本駅には予定よりも30分ほど早く着いた。

6時になるまで待とうと思ったが、念のためにメールを一つしておく。

「予定より早くて今着きました。ゆっくりでいいです。」

すると、思いがけずに早く返信が来る。

「もう向かってるから、あと15分くらいで着くよ。」


焦る。

夜勤明けに高速バスで松本まで5時間近くかけてやって来たのだ。

化粧もボロボロだし、髪の毛も直したい。

もしできるなら

「今から美容院に行ってすべて最初からやり直したい。」

が希望だがそんなわけにはいかないので

私はキャリーバッグをガーッとものすごい勢いで引きずり

駅の公衆トイレに駆け込んだ。


もう髪の毛は諦めようと思い、

とりあえず化粧をベースからやり直そうということに決める。

案の定、脂でテカテカ光っている。

こんな姿、2ヶ月ぶりに再会する松木先生には見られたくない。


たとえ『友達』でも嫌だ。

むしろ『友達』だから嫌だ。


松木先生の視力が悪ければいいのに、と本気で思いながら

化粧のベースを塗りたくった頃に携帯が振動した。

「着いた。」

笑顔の絵文字つき。

「急いで行きます!」

とメールしてパタパタとファンデーションを塗る。

これも急いでいる内に入っている。

……はず。
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