定義はいらない
次に会った時、

つまり翌週に飲み会を控えた火曜日の夜

太朗ちゃんは今までにない抱き方をしてくれた。


今までのセックスは

『ジャスト・セックス』


そこに愛情の欠片も感じられなかったし

私は諦めていた。


けれど、この日のセックスは

濃厚なキスで始まり

太朗ちゃんがあまり好まない正常位で

私の頭を撫で続け、キスをし続けてくれた。

正常位で顔を見つめながら抱かれるなんて

求めてはいけないことだと思っていた。


「この人は私を愛してるのではないか?」


そんな期待が胸に広がった。

それは一滴の水が波紋のように湖に広がるみたいに

私の心に浸透した。


「今日、いつもと違いましたね。」

「うん。」


彼は少しお茶を飲んで、いつもの通り帰って行った。

愛の言葉はもちろんないけれど

私は微かな期待で心が満たされた。


幸せだった。

久しぶりに薬を飲まずに眠れた。
< 98 / 200 >

この作品をシェア

pagetop