シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
政務塔の中のシンプルな部屋。

昼間エミリーとシンディがランチをした部屋。

壁の燭台には煌々と灯りが灯り、窓の外は、もうすっかり闇に染まっている。


シンディはこの部屋で、先生から出された課題を解いていた。

テーブルの上にはお茶とお菓子、それに問題の書かれた紙が3枚置かれている。

いつも帰りの遅いパトリックが迎えに来るまでの間、こうして、出された課題をこなすことにしている。

巫女の稽古の後行われる勉学の時間は、疲れのためか、いつも眠りそうになってしまう。

おまけに今日は大の苦手な数学だった。

シンディは学校でも成績はトップの方に名前を連ねているが、数学だけはどうも苦手。

数字を見るだけで嫌になってしまう。

それに、いつもの人と違って今日は講師の人が厳しかった。



「シンディ様、今、目を瞑っておられましたな?毎日舞いの稽古でお疲れでしょう。毎日頑張っておられるご褒美に、課題を沢山ご用意いたしました」

課題を渡しながら、にんまりと笑う年配の先生。


いつもの先生はどうしてなのか来られなくなり、これからは毎日、今日来た先生が来るらしい。

こんなの、ご褒美でもなんでもない。


「もう!あの先生厳しいわ。どうして先生が変わったの?」


口を尖らせて呟くシンディ。問題がたくさん書かれた紙を睨みながら、イライラと爪を噛んでいた。


「シンディ、分からないのかい?・・・これは、この数字をこれに置きかえればいい」


悪魔のような問題とブルーの瞳の間に、急に入ってきた優しい指先。


「お兄様!今日はもう終わったの?」


シンディは嬉しそうに大きなブルーの瞳をキラキラと輝かせて見上げた。

テーブルの脇、パトリックが優しく見下ろしていた。


「いや、まだ終わっていない。今日はいつもよりもっと遅くなる。先に帰って貰おうと伝えに来たんだが・・・・シンディ、この答えは違うぞ?これは――――」


パトリックは懐からペンを取り出して、シンディの分からないところを一通り教え始めた。

年の離れた兄妹の微笑ましい光景。山積みになっている仕事を後にまわし、シンディに付き合うパトリック。


「お兄様・・・凄いわ。とても分かりやすいもの。お兄様が先生だったら、数学だって好きになったかもしれないわ」

パトリックのおかげで終わらせることが出来た課題を鞄に仕舞い、シンディは前に座っているパトリックを見た。


「ね!お兄様、エミリーさんを今度の週末に食事に誘うといいわ。エミリーさん、いつもランチとディナーは一人だって、寂しそうにしていたわ。とてもかわいそう・・・お兄様、どこか素敵な所に連れて行ってあげて。今なら朝の時間、医務室にいるわよ?」


「医務室に?」


「そう。毎日怪我をした小鳥の様子を見に行ってるらしいの。ね?」
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