シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「彼女は異国の者だ。それゆえ、この国の身分の縛りなどは必要ない。彼女の心は気高く美しく、何処の令嬢にも負けぬ」


「いいえ、王子様、身分は大切なもので御座います。あなた様はこの国の王子であらせられます。身分のよい家柄の者は、それ相応の教育をきちんと受けており、どの場面においても適切なふるまいをすることが出来ます。なにとぞお考えをお改め下さい」


口鬚を生やした紳士は丁寧に頭を下げて進言した。



「案ずるな、彼女は相応の教育を受けさせておる」


「ですが、王子様、異国のお方と言えば、なおさらこの国の御正女様には向かないでしょう」



口髭の紳士は飲んでいたカップを丁寧にトレイの上に置いた。



「そうですな、私はその方を実際には存じ上げませんが・・・。王子様の妃ならば、異国のお方でも、ラステアの姫君のように相応の気品と教育を受けておられる方がいいと存じます。私も、そのお方は御側女にされた方が宜しいかと。いくら教育を受けておられても、生まれながら出る気品や威厳は、やはりなかなか教育では―――」



サルマンもそれに同調し、首を横に振って、口髭の紳士と同じ様にトレイの上にカップを置いた。




「そうですな。その方が宜しいです。王子様も、あまりに近くに置きすぎて、その方への情けを愛情と勘違いしておられるようだ」


テーブルの上の書類を纏めていた恰幅の良い紳士が、意味ありげにニヤニヤと笑った。



「少し離れれば情も薄れましょう。どうでしょう?宜しければその方を、私の息子の嫁に。アラン様の御寵愛を受けた方を迎えられれば我が息子も―――っ!?」


恰幅の良い紳士は慌てて口を閉じた。


ずっとニヤニヤしていた顔は一変し、どんどん青ざめていく。


アランの冷たく鋭い瞳が、紳士の丸々とした顔を見据えた。



「これは・・・申し訳御座いません・・・。まさかそのようにお怒りになるなど・・・お許しください」


氷のように冷たい空気がビリビリと振動するように辺りに広がっていき、御三家の紳士たちが顔を顰めてジリジリと後退りを始めた。




「・・・王子様、出すぎたことを申しましたが・・・これは、この国を思うが故、王子様のことを思うが故で御座います。どうかお許しください」


額に汗を滲ませながらも、口鬚の紳士は頭を下げた。



「お気遣いまことに感謝する―――急ぎの案件があるので、これで失礼する」
< 275 / 458 >

この作品をシェア

pagetop