シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「シャルル、しっぽ触っていい?」

エミリーはフリフリと動く尻尾をそっと触った。

よく手入れされた綺麗な毛並み―――

そう言えば、シャルルと間違えてアラン様の髪を掴んだことがあったっけ・・・。

シャルルは体を撫でる優しい手を受け入れ、クッションの上に丸まって気持ち良く眠っている。

電灯の明かりに、銀の毛並みがつやつやとしている。


「アラン様・・・」


今頃はきっとマリア姫と婚約してるわね。マリア姫に銀の鍵を渡して来たもの。

正室の部屋に入れたはずだし・・・あの夜に、お互いに愛を告げて結ばれたはずだわ。


脳裏に浮かぶのは、マリア姫とキスするアランの姿。


エミリーの胸がちくんと痛み、アメジストの瞳が見る間に曇っていく。


いいの、これで・・・マリア姫と結婚すれば、いらぬ負担を負わなくて済むもの。

その方がいいもの・・・。

アラン様の幸せはわたしの幸せ・・・きっと、幸せに・・・。



エミリーは窓の外を見やった。

空には月が一つだけ浮かび、星はまばらに小さく煌いていた。



「この空は、城には続いていないわね・・・」


ギディオンの空はこんなんじゃない。

降るような星空の中に浮かぶリンク王とシェラザード様の月。



“この花は月夜に咲くんだ”


あのときシャクジの森で見た、あの青白い花はもう咲いたかしら。

でも、きっともう枯れてしまってるわね。

だってあれは随分前のことだもの・・・。


昼間は、パパやママが頻繁に話しかけてきたり、掃除とか片付けとかの用事を言いつけてくるから、余計なことを考えることもないけれど。

こんな風に静かな夜は、嫌でも恋しい人のことを考えてしまう。


遠い遠い国に想いを馳せてしまう。


ギディオンで暮らした切なくも楽しかった日々。

今日はどんな天気だった?

メイは元気かしら。ジェフさんと結婚して、リングを外して貰えたかしら。

ウォルターさんは今日も難しい顔をしてるのかしら。

パトリックさんの挨拶、微笑みながら優雅に手を上げて・・・。

よく、城のメイドたちが騒いでいたっけ。

アラン様の威厳ある瞳。ブルーの瞳は今何を見てるのかしら。


アラン様は今、何をしてるのかしら―――


シャルルのあたたかさが眠気を誘い、徐々に瞼が重くなっていく。


園芸店での一件以来あまり眠っていなかった。


「シャルル・・・一緒に・・寝てくれる・・・?」


エミリーは、シャルルの体にそっと頬を寄せた。
< 363 / 458 >

この作品をシェア

pagetop