36.0℃の熱帯金魚

***

メトロを乗り継いで、お気に入りの店に到着。

晴天のおかげか、街角は賑わっていた。


家族ずれ、友達同士、そしてカップル。
繋がれた手が、ちょっと眩しい。


ショーウィンドウには、パステルカラーの服たちが並んでいた。
明るく。
軽く。
春らしく。



やっぱり、金魚なんて、ない。
ところで、金魚っぽいコートってどんなだろう……、


「あれ? マリちゃん?」


突然の声。

振り向くと、そこには……、


「ハジメ先輩?!」


大学時代の先輩が立っていた。
カジュアルな休日の服装に身を包んで、驚きの表情を浮かべている。


「うわー、大人っぽくなったねー。髪、伸ばしたんだ」


「どうも。先輩は……、相変わらずですね」


「なにそれ」


「いい意味ですよ」


「なら、いいけど」


そこで、お互いに笑いあう。

ハジメ先輩は、スポーツマンを思わせる爽やかな笑顔で、パっとまわりを明るくする。
心地良い夏の日の、太陽みたいな人だ。




変わらない、気軽なテンポ。

あたしの心はグングン昔に戻っていく。

大学、1年生の頃に……。
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