記憶〜切愛〜
「お兄ちゃ…これっ」

「お前に預けとく。大物になったら返しにこい」

ニカッと笑ったお兄ちゃんは子供のようだった。

私の頬をくすぐっていた髪がハーフアップに結ばれ、耳を風がかすめた。

こそばゆい。

お兄ちゃんが私の前髪をスッとわけた。

そして愛しげに目を細めほほえんだ。

「やっぱりこれが一番似合う」

「そ、そぉ?」

私の声は聞こえていないのか、質問には答えてもらえない。

「もう一度、行っておいで」

私に向けられているはずの目は私を見ていない。

遠くを見透かし。

誰かを見ていた。

「さ、帰ろう。」

お兄ちゃんが私の手を引く。

「うん…」



チリリリン…



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