飼い犬に手を噛まれました

お隣のちーちゃん

九つ歳の離れたイトコの千尋が私の家の隣に引っ越してきたのは十二年前。

一人っ子の私にとって千尋は歳の離れた弟みたいな存在で、お隣に住むイトコと言う特権を最大限に利用し、私は千尋のママ以上に千尋を可愛いがったと自負している。


少し癖のある、色素の薄い髪に指を絡めるのは日課。

絹のようなすべすべな肌に頬擦りするのが日常。

同級生達がコイだのアイだの運動だの、アオハルとやらに明け暮れるなか、私は仕事で留守がちだった私の両親と千尋の両親に代わって炊事洗濯家事送迎。
果ては入浴から寝かし付けまでをフルコースで請け負い(寧ろ買って出た)、ええそりゃもう花の中学高校大学と実に学生らしさが微塵もない家政婦生活を送った。


でも、それはそれで良かったんだ。

それまで自宅で過ごす時間の大半が一人だった私は、誰かと共に過ごせる毎日に満足していたから。


スキンシップよろしく互いの髪を洗ったりしていた仲なのに、身を寄せるよう一つのベッドで眠らなくなったのはいつの頃だったか。

私の甲斐甲斐しい、否、甲斐甲斐しずぎる世話あって、流行り病なぞに犯される事もなく、すくすくと成長していった千尋は気付けば私の手助けがなくとも十二分に生活できるようになった。


そして――今、添い寝は不必要となった筈の千尋と、数年ぶりに一つのベッドへ身を沈めている、のは、……Why? 何故なんだ。
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