悲恋マーメイド
そしてその者への愛おしさと申し訳なさに震えながら近づき、抱き上げようとして遮られる。


男の手を遮ったのは

西の魔法使い
だった。


いつ現れたかもわからない西の魔法使いは優しく女を抱きあげ、男に背を向ける。

黙って出て行こうとするふたりに焦って男は声をあげた。


「待て!!」

「…お前さ」


男の命令を完全に無視して、西の魔法使いは低く声を出した。



「なんで【声】の瓶割らなかった?」



少しも振り返ることなく言われた台詞に男は喉を詰める。

意識のない女を見つめながら、西の魔法使いは目を細めた。


女が自分を頼ってきたのは二回だった。

そのどちらも東の魔法使いのためだった。

女は東の魔法使いの幸せを望んでいた。

明日を願っていた。

未来を祈っていた。

笑顔を戻したがった。


しかしそのどれにも女自身の幸せは含まれていなかった。


西の魔法使いは吐き捨てるように言った。



「こいつが払った対価が何か教えてやる」


西の魔法使いは
女の妹を憎んだ。

女を追い詰めた
女の妹を憎んだ。

そして女を追い詰めた東の魔法使いも同じく憎かった。

さらに女を止められなかった

自分も。








「『魂』だ」


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