悲恋マーメイド
西の魔法使いは眠り続ける女の髪を梳きながら、その額にそっと口づけを落とした。
温もりが
あるだけの女は、
その抱擁にまつ毛さえも動かさない。
伝えればよかった。
こんな事に
なるのなら。
自分の気持ちを。
ずっと思い続けた
深い感情を。
女は、自分を想う者がいないと思っていたからこそ凶行を選んだ。
そうでないと知っていればこんな事はしなかった筈だ。
誰よりも残される悲しみを知る者ゆえに。
誰よりも一方通行の悲しさを知る者ゆえに。
伝えればよかった。
こんな事に
なるのなら。
自分の気持ちを。
もっと早くに。
西の魔法使いはそんな後悔に胸を焼かれながら
女の髪を
梳き続ける。
ずっと。
ずっと。
――――永遠に。
そして
語りかけ続ける。
なあ
外に出ないか。
なあ
美味いものを
持ってきたんだ。
なあ
春の祭りが
始まったようだ。
なあ
面白い話を
聞かせてくれよ。
なあ
どんなものが
好きなんだ?
なあ
夏がきたぞ。
なあ
素晴らしい歌を
聞かせてくれないか。
なあ
この本
読んでみないか?
なあ
もう秋が間近いな。
なあ
こんな噂を
知っているか?
なあ
寒くなってきたな。
なあ
冬になったようだぞ。
なあ。
なあお前さ。
俺の声が
聞こえるか……?
終
温もりが
あるだけの女は、
その抱擁にまつ毛さえも動かさない。
伝えればよかった。
こんな事に
なるのなら。
自分の気持ちを。
ずっと思い続けた
深い感情を。
女は、自分を想う者がいないと思っていたからこそ凶行を選んだ。
そうでないと知っていればこんな事はしなかった筈だ。
誰よりも残される悲しみを知る者ゆえに。
誰よりも一方通行の悲しさを知る者ゆえに。
伝えればよかった。
こんな事に
なるのなら。
自分の気持ちを。
もっと早くに。
西の魔法使いはそんな後悔に胸を焼かれながら
女の髪を
梳き続ける。
ずっと。
ずっと。
――――永遠に。
そして
語りかけ続ける。
なあ
外に出ないか。
なあ
美味いものを
持ってきたんだ。
なあ
春の祭りが
始まったようだ。
なあ
面白い話を
聞かせてくれよ。
なあ
どんなものが
好きなんだ?
なあ
夏がきたぞ。
なあ
素晴らしい歌を
聞かせてくれないか。
なあ
この本
読んでみないか?
なあ
もう秋が間近いな。
なあ
こんな噂を
知っているか?
なあ
寒くなってきたな。
なあ
冬になったようだぞ。
なあ。
なあお前さ。
俺の声が
聞こえるか……?
終
