悲恋エタニティ
震える手でそれを取ろうとすると


「何をしている」


と止められる。

盃を取れと言ったではないか。

と顔をあげると、桂乃皇子はおろか周囲の人間も皆嗤って私を見ていた。

何がおかしいのだと訝しんでいると、夫となるその男はこう言った。


「そのまま飲め」


短く命じられた一言に喉が詰まる。

台もなく膳も用意されず板間にそのまま置かれた盃に、彼らは触れるなと言ったのだ。

そのまま
飲めと。

頭を深く下げ床を舐めるようにして、犬のようにかしずいて飲めと。

……心が、死んでいくのがわかる。

ひたり、ひたりと心が死んでいく。

悲しみも凍りつき、羞恥も砕け散り、痛みも沈み込み、そうして私はゆっくりと頭を下げた。


…私は何の為に生まれたのだろう。


ずっとそう問い続けてきた。

父に。
母に。
人々に。
世界に。

……神に。

心の中でずっと。


唇に盃がつく。

啜るようにそれを飲んだ。


周囲が嗤う。

それは
それは

楽しそうに。


私の夫となった男もまた、初めてといって過言でないほど愉快げに私を見て嗤っていた。


…私は何の為に生まれたのだろう。


もう、涙の出ない瞳を伏せながら思った。


…きっと。

この男を守り…死ぬこと。

その為に生まれたのだろう……と。
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