◇白黒恋争物語◆~運命の翼~
階段を少し下りたところで私はすとんと腰を下ろしてしまった。
なぜだか涙が止まらなかった。
「ううう・・っくうう」
私は顔を手で覆い声を抑えた。
すると
「棗?」
その声に私は振り向いた。
「あ・・怜汰・・」
私は顔を隠すことを忘れ、足は怜汰へと向き、そのまま怜汰の胸に顔をうずめた。
「・・別にたいしたことないのに・・なんで涙が出るんだろう・・うう・・っく」
「棗・・。大丈夫かよ・・」
怜汰は私をぎゅっと抱きしめてくれた。暖かくて優しい温もりが体に伝わる。
懐かしい。この温もり。
幼いとき、私が泣いていたらすぐに抱きしめてくれたこの温もりは怜汰だった。
あの時も、あの時も、あの時も・・・。
怜汰は何も言わず、私が泣き止むまでずっと抱きしめてくれていた。
「・・ごめんね」
「大丈夫だよ。棗、久しぶりに泣いただろ。だって棗をこうやってあやすのひさしぶりだから」
「あやすって・・」
私達はクスっと笑って立ち上がった。
「あ。私これから有紀とカラオケなんだ・・。行かなきゃ」
「そっか。・・こんな顔でいけんのか?」
怜汰は私の涙をすっと拭って微笑んだ。
「・・うん。怜汰のおかげでもう大丈夫。顔は・・なんとかごまかすよ」
「わかった。・・・あんまり無理すんなよ。棗」
「・・・ありがとう。怜汰には感謝しきれないや・・。・・じゃあ行くね」
「うん。あんまり遅くなんないようにな」
「はい」
私はゆっくりと階段を降り始めた。
自分の涙の意味を考えながら・・。