短編集


 さいごのたこ焼きを一口で頬張り、鯨飲したというのに、私のお腹の虫はまた鳴り始め、ソースがついて光るオガタくんの唇がとてもおいしそうに見え始める。唇だけじゃない。オガタくんの全てが世界で一番おいしい食材に見える。飢えた狼が羊を目の前にしたら、食欲に体を支配されてなにも考えられなくなる。私も同じ、飢えた狼じゃないだけで、羊じゃないだけで、おんなじことなの。

 夕陽のせいか、オガタくんの頬は熟れた林檎のように赤くなり、照れたような震える声で私のあだ名を呼ぼうとする。それを、オガタくんの七面鳥の足のような二の腕に触れて制すると、私はにこりと笑った。


「そのかわり、私に食べられてね」


 
 がぶり。

 ああ、きょうもおいしかったわ。




End
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