魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
その頃リロイとティアラは、ティアラの母国レッドストーン王国の中庭へと降り立った。


もちろん帰ることを知らせても居なかったので、真っ黒なドラゴンが舞い降りると、緋色の騎士団が及び腰になりながらも回りを取り囲んだ。


「待って!私です」


「!ティアラ王女…!これは…幻の聖獣ドラゴンでは!?」


「ティアラ、手を」


時間があれば神に祈りを捧げ、人前にあまり出ることのないティアラの手を引いて降ろしたのは、隣国ゴールドストーン王国の白騎士の隊長だ。

その階級もさることながら、ここ数年は近隣に現れる魔物を倒し続け、その実力は誰もが認めるところになっていた。


「リロイ殿…!」


「突然すまない。フィリア女王陛下にお会いできるだろうか」


「も、もちろんです」


たおやかで愛らしく色気のあるティアラは緋色の騎士団内ではアイドルのような存在だったが、リロイに手を引かれてフィリアの政務室へと歩いて行くティアラはとても嬉しそうで、その様子はあっという間に騎士団内に広まることになる。


「お母様にお会いしてどうするのですか?」


「まずは王宮内での協力を。僕たちが運んできたビラを皆で配りましょう。ティアラ、あなたがスピーチを」


「え…?私が、ですか…?皆の前で!?そんな…できません!」


人見知りで神に祈ってばかりのティアラにとっては、軽く万を超す人々の前でスピーチなどできるはずがなく、立ち止まると懸命に首を振り、身体を震わせた。


「無理です、私、人前になんて…」


「ティアラ…あなたは近い未来、女王になる人だ。あなたの言葉に国民は導かれてゆくのです。あなたの言葉に国民は必ず耳を傾けます。あなたがやるべきだ。僕が隣で支えていますから…勇気を出して下さい」


――思えば、ラスは何もできない子だったのに、料理も勉強して、独りで精霊界にまで行く勇気があった。

親友ではあるが、対抗意識もある。

ラスは王女という立場を捨ててコハクと生きてゆく予定だが、自分は違う。


自国の国民に生まれ変わった王国を見てもらいたい。

移住したいのであれば、協力してやりたい。


だから、決意した。

勇気を出そう、と――
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