魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
――ゆっくりと頬を撫でる手…


ラスは愛しげに動くその手に瞳を閉じたまま指を絡め、薬指にあるはずの指輪を探したが――


薬指には、お揃いのガーネットの指輪はなかった。



「…コー…?」


「ラス…僕だよ」


「…リロイ…どう、したの…?」



傍らにはリロイがベッドに腰掛けていた。


そしてラスは自分が裸なことに気付いてシーツで身体を包むとむくりと起き上がった。

身体を隠していないとコハクに叱られてしまう。

それにどうしてこの部屋にリロイが…と思い、眉根を絞って苦しそうな表情をしているリロイの顔を覗き込んだ。



「苦しそうな顔してどうしたの?ねえリロイ、コーはどこ?」


「…ラス…ゴールドストーン王国へ帰ろう」


「…え?」



そして、目の端に入ったものは…床に無造作に転げていた魔法剣と…


点々とバルコニーに続く血痕。


それも、大量だ。


――途端に背筋がぞわっとした。

いやな予感が身体中を駆け抜け、急に脚ががくがくと震えながらも立ち上がり、バルコニーに向かってよろよろと歩き出した。



「コー…、コー、どこ?ご飯一緒に食べようよ…コー………」



海からの強い潮風がラスの金の髪をなぶり、


ラスの大きなグリーンの瞳が…驚愕に見開かれた。



「なに、これ…」


「ラス…」



背後からリロイが振り絞るように声をかけてきたが、ラスはそれから目を離せなかった。



「なんなの…この血…リロイ…この血…誰の血、なの…?」


「…僕が魔王を殺した」


「…え…?だってリロイ…お祝いしてくれるんじゃなかったの…?冗談でしょ?コーと一緒に私に悪戯してるんでしょ…?」


「…帰ろう。僕たちの国に」



ラスが見たものは…大量の山のような血糊と、血の海。


喉から悲鳴が競り上がった。



「いやぁあぁあ!!」


「ラス!帰ろう、一緒に…!魔王のことは忘れるんだ、僕が忘れさせてあげるから!」


「いやぁーーっ!コー!コー!!ここに来て!ここに!コー!!」



悲鳴は、止まない。

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