魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
何故不死の魔法を研究し、その方法を習得したのか――

長年聞けなかったことでもあり、またローズマリーの恋路を聴いたことがない。


過去のことはすっぱりと切り捨てていたコハクは視線を落とすとまたレモン絞りを再開した。


「ま、人生永遠に続くんだ。お師匠が選んだ道なら別に反対しねえし。オーディンとどうこうなりてえんなら応援するぜって話さ」


「…何でも屋さんは人じゃないでしょ。それに私は病気のせいで子供が生めない身体だし、幸せなんてもうとっくの昔に求めることをやめたわ」


――珍しく悲観的なローズマリーの様子が気になったコハクは、レモンを絞り終えると隣に座り、頬杖を突いて顔を覗き込んだ。


「ガキが出来なくても好きな奴と一緒に居たら楽しいだろ。少なくとも俺はそうだけど」


「なんなの、のろけるつもり?今、虫の居所が悪いんだからひどいこと言うわよ」


「あの時以上にひどい言葉があるか?ま、今はチビから“大嫌い”って言われるのが1番堪えるけどさ」


“あの時”と言ったのは…もちろん、あの小さな家から追い出された時のことだ。

だがあの時、あの家を出なければ…小さくて可愛くて、愛しい最愛の女には出会えなかっただろう。

ローズマリーと2人で狭い世界に生き、勘違いをしたまま生き続けたかもしれない。


「悪かったとは思ってるわよ。だけど私みたいな年増の傍に居ていいことなんて何ひとつなかったはず。もう学ぶこともなかったでしょ」


「そっか?魔法以外にもイロイロ学ばせてもらったけどな」


――こそりと耳打ちされ、誰もが振り返り、誰もが“抱かれたい”という男になってしまったコハクをじっと見つめ、ふいっと顔を逸らした。


「そうね、イロイロ教えたわね。お役に立てて良かったわ」


「ちょ、まだいじけてんのか?ったく…チビの前でそんな態度すんなよ、気にするからさ」


「わかってるわよ。ラス王女が心配するからもう行って」


「ああ。じゃあ明日もまたよろしくな」


グリーンリバー産の蜂蜜をたっぷり入れてお湯を注ぎ、グラスを手にキッチンを後にしたコハクの背を見つめ、ひとつぽつりと漏らした。



「……幸せになりたかった。…あなたと」



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