魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ラスもコハクも朝まで眠れず、夜が明けるまで互いに壁際に座り込み、時々壁に耳をあてては隣の部屋の様子を窺っていた。

そして朝日が昇ると、ラスが動いた。

そっとドアを開けるとグラースと目が合い、昨晩何も言わずに背中を撫で続けてくれた優しくて姉のように慕っているグラースに抱き着いた。


「おはよう。グラース…リロイ…昨日の夜はごめんね、もう大丈夫だから」


「強がりはいけないよ、ラス。僕が影の代わりに傍に居てあげるから…だから…」


「ううん、リロイはいつも通りティアラとドラちゃんに乗ってみんなを勧誘してきて。私はエリノアとレイラとお掃除頑張るの。…スノウは?」


途端にリロイの顔に影が差し、グラースがラスの背中を押すと隣室のコハクの部屋の前へと立たせた。


「行って来い。きっと待ってる」


「…うん。私…頑張ってくる」


昨晩からずっと考えてきた答えを出すために。

そしてコハクに謝るために――


「コー…、居る?入ってもいい?」


いつもはノックもなく入るのだが、緊張のあまりノックして固唾を呑んでいると、ゆっくりとドアが開いた。


…秀麗眉目な美貌はやややつれ、だが目が合うとほっとしたように頬を緩めて笑いかけてくれて、一気に涙腺が緩んだラスは唇を震わせながら頭を下げた。


「ごめんなさい!コー…ごめんなさい!私…全部見たよ。誤解だってこと、知ったから…!」


「…ん、わかってくれたんならいいんだ。俺こそごめん、チビに嘘ついて…スノウに会いに行った」


――余所余所しい。

背を向けて室内へと戻って行くコハクを追いかけてドアを閉めると、いつもみたいに抱き着くこともできずに何度も深呼吸を繰り返すと、答えを出した。



「私…しばらくコーから離れる。離れて…もっともっとコーのことを見つめ直すの。だから…一緒に寝ないし、今までずっと傍にいたけど、それも…」


「ん、わかった。…俺はいつまで待てばいい?もう…俺のことが嫌いになったか?」


「!違う…、違うよコー!お願い、私に時間をちょうだい」


「…ずっと待ってる。それに…俺も…頑張る」



笑いかけてくれたが、それは弱々しく…儚いものだった。
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