魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
夕暮れを迎えた時――ラスはもう立ってもいられない状態になっていた。

何か言う気力すらなく、とうとう気絶してしまったラスを抱き上げると、エリノアとレイラがコハクを呼びに行き、血相を変えたコハクがすぐに駆けつけた時、集中を欠いたことでサラマンダーや小さな蜥蜴たちは姿を消していた。


「チビ!」


「今眠っている。体力を使い果たしたんだ。…恐らく何も考えないように掃除に打ち込んでいたんだろう」


恐る恐るラスを抱っこし、手にできたあかぎれや擦り傷を見て居たたまれない気分になったコハクは脚で地面を何度か蹴り、浮かび上がった魔法陣の中から真っ黒なペガサスを召喚するとラスを乗せ、飛び乗った。


「一足先に戻る。お前も一緒に行くか?」


「いや、私はいい。もう少しフローズンを退治してから戻る」


一刻も早くラスをやわらかいベッドで休ませてあげたいコハクはすぐにペガサスの腹を蹴ると全速力でグリーンリバーに戻り、部屋へ着くとラスの服を脱がせ、ゆっくりと大理石の床にラスを座らせると少し熱めのお湯をかけてやり、爪の先から脚の爪先まで丁寧に身体を擦ってやった。


「…チビ…無理すんなよ。心配するだろ」


ただでさえ少し離れるだけで心臓が張り裂けそうなのに――


ラスは一向に起きる気配がなく、綺麗にするとラスによく似合う白のネグリジェを着せてベッドに横たえさせ、額に手をあてて瞳を閉じた。


意識を集中し、癒しの魔法をかける。

…癒しの魔法など不死の自分には必要がなく、覚えるつもりはなかったが…心の底から気まぐれでも覚えてよかったと痛感した。


しばらくするとラスの表情が和らぎ、すうすうと気持ちよさそうな寝息が聴こえたので安心して手を握り、白くてすべすべの頬にキスをした。


――自分と離れたことでラスに変化が起きるのが怖い。

自分よりもっと大切なものを見つけてしまって、自分から離れていったら…どうなるのだろうか?


何もかもが嫌になって…またいつかのように、自分を殺すための方法を必死に探してしまうかもしれない――


「…お前のことが大切なんだ。離れたくない。チビ…愛してる」


躊躇しながらも、少し開いたラスの可憐な唇にキスをした。
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