魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
影である自分…すなわち完璧ではない自分がラスを抱くのがどうしても嫌だった。

しかもラスときたら親の教育方針で、一般常識はあれど性に関する知識は一切なければ恋も愛も知らなかったし…

だからこそ、ラスを抱けない鬱憤が違う女に向かってしまって、結果最終的には怒られる羽目になったのだが。


「拷問とか私してないもん」


「いや、してたね。数え上げればきりがねえし、それにさ…」


瞬きも忘れたかのようにして見つめてくるラスの頬を両手で挟んで、見つめ合った。


「チビが俺に夢中になってくれたから、もういいんだ。だろ?」


「うん、夢中だよ?コーは違うの?」


「違くねえよ。16年もさあ、俺はずーっとチビが大きくなるまで見守ってたんだからな。夢中にならねえわけねえだろ」


するとラスがくすくす笑い出したので、鼻を甘噛みして首を傾げると、ラスはデスに気を遣いつつコハクの身体に馬乗りになって胸にしなだれかかりながら、リロイの名言を口にした。


「そういえばリロイが旅の途中に言ってた。“影はロリコンなんだ”って。ロリコンってなに?って聴いたけど教えてくれなかったの。でね、コーが眠ってる間に本で調べたの。ふふふ、コーはロリコンだよね」


「ちげーよ。ロリコンっつーのは不特定多数の幼女が好きなヘンタイだろ?ま、ヘンタイっつーのは当たってるけど俺の場合不特定多数じゃなくってチビだけだもん。怪我しねえように大切に見守ってきてやっただろ?ったく…チビが俺をいじめる」


目を擦ってめえめえと嘘泣きする仕草をしてまた笑わせると、ラスは男らしくよく出た喉仏に触れながら、欠伸をひとつした。


「コー…、ベビー…楽しみだね…」


「ん。もう寝ろよ。俺も寝るから」


「う、ん…」


コハクの体温にまどろみながらラスが眠り、横に寝かしつけると身体を起こして爆睡しているデスの寝顔を覗き込んだ。


――こうして人前で眠る男ではない。

常に他者を疑い、他者と馴れ合わず、他者と会話することさえ拒んできた男だ。

なのに今は子供のような寝顔を見せてまたラスの肩に顔を埋めて眠っている。


「せっかく色男なんだからもっと自分に自信持てばいいのにな」


殻を捨て、羽化する直前のデス。

羽化を促したのはもちろん…


「チビ…」


ひとつキスをして、眠りについた。
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