魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
魔界には、王と呼ばれている存在の者が居ない。


それぞれが好き勝手に生き、力のある者は力の無い者を嬲って跋扈する無法地帯だ。


だがそこに数百年前…ひとりの真っ黒な男が降り立った。


今まで我が物顔で弱者をいたぶっていた悪魔たちは…なりを潜めるようになった。


彼らはいつしかその男のことを、こう呼ぶようになった。


“魔王”と。


「あー、相変わらずここは変わんねーなー」


デスが魔界への扉を作って開けると、そこを通って一気に魔界へ着いたコハクは、赤と紫の不気味なコントラストの空を見上げてひとつ息をついた。


「……魔王が大暴れしてから…ここ、変わった…」


「ああ?俺のせいか?ちょくちょく遊びに来てただけじゃんかよ」


「……」


断崖から地平線を眺めたコハクは、そこかしこに点在する街の灯りを瞳を細めて見つめたが、デスは西の灯りが全く燈っていない方を指し、ぽつりと呟いた。


「………俺だけで…いいのに…」


「ふざけんなよ俺がチビの勇者様なんだから俺にやらせろ。あとあの街に行く」


デスが呼んだ黒馬に跨って街まで飛んで行って入り口に降り立つと、早速周囲からどよめきが起きた。


「魔王…!魔王が来た…!」


「また狩りに来たのか?!逃げろ!」


そこかしこから声を上げて逃げて行くのは、コハクに目をつけられそうな上級悪魔だ。


時に地上に姿を現し、人を食ったり人を惑わしたり操ったりして悪事を働いてきた悪魔たちを殺して数を減らし、淘汰してきたことがある。


何も世界のために…などと大義を持ってやってきたことではなかったが、彼らを狩る理由には憂さ晴らしも含まれていた。


「ま、こいつらが地上になだれ込んできたら…聖石がある王国以外は壊滅だったろうな。俺はそれでもよかったんだけどさ」


カイに倒されるまでは度々魔界へ来ては悪魔を狩ったりデスに会いに来たりしていたが、こうして街に姿を現したのは、実に18年ぶりのこと。


コハクが倒されたと知った時は彼らから拍手喝さいが起きたものだ。


だが再び魔王は現れた。


彼らから“魔王”と呼ばれるようになってから、それが面白くて自ら地上でそう名乗ったのがきっかけでカイたちからもそう呼ばれるようになったが、ここを治めるつもりはない。


もう自分の居場所は見つけたのだから。
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