魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
ローズマリーがこんなにか弱い姿を見せたのは、はじめてだった。


発作を起こして倒れた時はもちろん心も弱っていて殊勝だったが、勝気の方が勝っていたローズマリー。


いきなりキスをされて“行かないで”と言われれば、さすがのコハクもその意味に気付く。


「…なんだあ?寂しいのか?オーディン呼んでやろうか?あいつどこに…」


「…あなたが居て。コハク…私ともう会えなくなるのよ…?もうわたしのこと…なんとも思ってないの…?」


見上げてきたローズマリーの瞳は潤み、まだ酒が抜けきっていないのかしきりに身体を押し付けてくる。

しまいには手を掴まれてバスローブの中に導かれたので驚いて身を引いたが、ローズマリーはありたっけの力でコハクの手を押し留めて離さなかった。



「もう私の身体にも…興味がないってわけ?」


「…お師匠の身体もぷりんぷりんだけど…チビのもすっげえぷりんぷりんなんだぜ。それに誰かさんみたいに声を押し殺したりしねえし、すっげえ可愛いんだ。俺は…チビが可愛いんだ。お師匠とのことはもう忘れた。忘れたい。俺に執着するのはやめてくれ」



――執着していたのは自分だったけれど、今は違う。

あの時こんなに強く求めてくれれば…あの家から追い出さなければ、ローズマリーとの蜜月は続いていたかもしれない。

あの小さな小さな箱庭で――


「…私が…遅かったのね?」


「ま、そういうこと。だけどお師匠はオーディンを選んだだろ?あいつは元々人間を駒みたいに思ってた奴なんだ。そんな奴がお師匠をはじめて旅の伴に選んだんだ。あいつ…マジだぜ」


「そんな言葉が聴きたいんじゃない!」



一喝されたが、それでも態度を改めることはしなかった。


この時はじめてローズマリーの想いに気が付き、動揺したが…ラスを愛している気持ちに嘘偽りはない。


だから…応えるわけにはいかない。


「もうチビ以外は抱かないし愛さない。お師匠…ガキの頃から俺を育ててくれてありがとう。…また戻って来てくれよ。お師匠は永遠に俺のお師匠なんだからさ」


「…コハク…」



――その翌日…


ローズマリーはオーディンと共に旅立った。
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