魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】

リロイの決意

その日のクリスタルパレスは、ティアラの婚約者の悪評でもちきりになっていた。

コハクの思惑通りに事が進んで、城内の執務室でリロイの書類の手伝いをしていたコハクの隣にはオレンジを頬張っているラスと膝を抱えて全く動かないデスが居た。


「影…一体フォーン王子に何をしたんだ?」


「へ?もう気付いてるんじゃねえのかよ。飲み屋のお姉ちゃんたちを使って罠に陥れただけだし。おかげであいつ、ここにも居づらくなったぜ」


相変わらずコハクたちと一緒にここへ来ることができないでいるフォーンは馬を駆ってまだ向かっている途中だったが、きっと着くなり皆の悪意に満ちた視線に晒されるだろう。

逆にリロイとティアラはお似合いのカップルとして認知されていたので、ティアラに婚約者がいることと、突然現れて我が物顔で闊歩していたハゲ頭の男がその婚約者であることにショックを受け、同情していた。


「やり方が姑息すぎないか?」


「ふざけんなよ俺が厚意でやったんだぞ。お前だってもうボインとや…」


「何もしてない!僕はお前とは違うんだ!」


拳でテーブルを叩いて怒りつつもリロイの顔は真っ赤で、ラスはソファーから立ち上がるとリロイににじり寄って無理矢理リロイの膝に上がったので、魔王、ご立腹。


「ねえリロイ、ティアラと一緒の部屋でどきどきするでしょ?」


「えっ?…う、うん、まあ…」


「キス位したの?私にだけ教えて。ねえ早くっ」


魔王がじっとり見つめる中、少しだけ優越感を感じたリロイはラスの耳元でこっそり事実を打ち明けた。


「…したよ」


「ほんと!?わあ…、ティアラ喜んだでしょ?キスだけなの?」


「ラス…ティアラには婚約者が居るんだよ。僕は言わば横恋慕してる形なんだ。…君との時もそうだったけど、そういう運命なのかな」


「運命じゃないよ、ティアラはリロイと結婚する運命なんだから絶対あきらめないでね。私応援してるからっ」


「こらそこ!そろそろ膝から降りなさーい!君は完全に包囲されている!」


書類を丸めてメガホンを作ったコハクの説得を受けてリロイの膝から降りたラスは、うきうきしながらソファーに戻ってコハクとデスの腕に腕を絡めて脚をばたばたさせた。


…運命など切り開くものだ。

ラスは身を持ってそれを知っていた。
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