魔王と王女の物語②-Chain of destiny-【完】
エンジェルがベッドの上で跳ね回っていると、コハクと小さな勇者たちが街から帰って来た。

すっかり上機嫌のエンジェルは早速コハクに駆け寄って脚に抱き着き、背が高くて瞳が真っ赤でとてもかっこいい父親を見上げて両腕を伸ばす。


「パーパ、抱っこー」


「よしよし、よいしょー。いい子にしてたかー?」


「うん、いい子にしてたよ。あのねパーパ」


とにかくでれでれしまくってエンジェルに頬ずりをする溺愛魔王に呆れ果てた小さな勇者たちは、ラスに構ってもらおうと思ってその場から駆け去って行き、エンジェルはコハクの耳元でこそこそと囁いた。


「マーマみたいになれたら、黒いのがここにチューしてくれるって言ったよ」


「はあっ!?ちょ…ま、待て待て待て…落ち着け俺…。デスが?誰と?誰のどこに!?」


「私の口ー」


嬉しそうに笑ったエンジェルの笑顔に脱力感満載のコハクは、エンジェルを抱っこしたままへなへなと座り込み、通りがかったグラースに鼻で笑われた。


「気苦労が絶えないな」


「俺の…俺のエンジェルが…!あの死神ここから追い出しちまおうかな…」


「うん、じゃあ私も黒いのと一緒に出て行く。パーパとはお別れだね」


…コハクの弱点を無邪気な笑顔で的確に突いてくるエンジェル。

エンジェルがラスのように綺麗になるのはもうわかりきっていることだし、エンジェルはともかくデスには重々手を出すなと言っておかなければと焦りを感じたコハクは、立ち上がるとエンジェルの頬をぺろぺろしてにやっと笑った。


「でもエンジェルの初チューはパパなんだぞ。だからアレもパパが頂いてやる!」


「アレ?アレってなあに?」


「秘密ー」


娘に対してヘンタイ満載の色ぼけ発言を炸裂させたコハクは、もちろん今の冗談だが…

デスならば浮気の心配はないだろうし、そういう点では認めてやらなくもないなと軟化な姿勢を取りながらも、エンジェルを抱きしめて離さなかった。


「パーパ、痛いよ」


「あと20年は傍に居てくれ!嫁になんか出したくない!やだ!エンジェルは俺のもんだ!」


「もお、コーったら…。私がまた女の子生んであげるから」


小さな勇者たちから騒動を聞いて迎えに来たラスが腕組みをしてため息をつくと、コハクはそれを思いきり首を振って全否定してまたエンジェルを抱きしめる。


「やだ!女の子はもう要らねえ!こんな思いはもうごめんだ!」


「パーパ、私妹が欲しいな」


…いつまで経っても気苦労が絶えない魔王。



それから10年と少し経った頃――

エンジェルは夢を叶えて、愛しい者と繋いだ手を見つめて微笑む。

それが誰の手かは、今は語らないでおこう。


おまけSS【完】
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