恋愛ウィーク
「彼女たちが遠野さんを好きなのは遠野さんの管轄外の出来事です。

つまりそのことによって私が何をされようとも遠野さんに責任は生じません。

でも遠野さんはそれを気にする人間です。

トイレの芳香剤ですから」




「……ええと?」

「私が遠野さんをトイレの芳香剤と言ったのはフェロモン云々の問題ではありません。

表現が悪かったのは反省していますが、
私にとっては褒め言葉でした。

トイレの芳香剤とは本来、

不愉快なものを一掃し爽快にする役目を担う物です。

遠野さんは
そういう人です。

女性にうける生き方をしていたと仰いましたが

そうは
見えませんでした。

遠野さんは男性にも信頼されている。

遠野さんは『叱る』と『怒る』を間違えない人です。

『慰める』と『励ます』を間違えない人です。

暗い雰囲気を
払拭します。

絶望を
希望に変えます。

眉間のしわを
笑顔に変えます。

私はずっと遠野さんをそんな人だと感じてきました。

でも遠野さんがそんな人なのは

誰より何よりすべてを背負う人だからです。

優しい人
だからです。

だから彼女たちのことも背負ってしまうと思いました。

それは悲しいと思いました」


「…………」


「私は強いです。
それだけしか取り柄がありません。
私は強いです。

だけど私は、
強い人より優しい人になりたかった。

『重要』よりも『大切』がわかる人間になりかかった。

『これから』よりも『いままで』を守れる人間になりたかった。

遠野さんみたいに。

遠野さんは
私の憧れでした。

そんな憧れの人が傷つくこと、私したくなかった」



「……………」



「だから言いませんでした。

それが悪かったとは思いません。

これは
私の問題です」





「…………な、るほど…」





「………」




「…それで…『私はそんなつもりで…』か」



「は?」

「…いや……ただ、ま…」

「…ま?」



「……参った」



「…は?」


「…罪なひとだな」


「……は?」

「…いや、こっちの話」

「……はあ」

「…ところで君、気付いてる?」

「はい?」




「俺は今、深刻に君に心臓を奪われたよ」



「……………は?」



「…クールな反応だね。

でも今度は
それでスルーさせてあげない。

俺は今
告白をしています。

愛を
吐露しています。

だだ漏れです。

好きです。

愛しています。

お付き合い
しませんか」







「………………………………は?」





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