ボクは桜、キミは唄う
グラウンドからピーッと笛の音が鳴り響くのが聞こえてきた。

その合図を、土を蹴り上げる軽快な音が追いかける。

フェンス越しに見ると、陸上部が100m走の測定をしているようだった。

次、柚木君だ。

スタート地点についた柚木君の顔は真剣そのもの。

誰も寄せ付けない厳しさもあって、視線はゴールに向かってまっしぐら。

ピーッ。

柚木君と北川君が同時に駆け出した。

私のいる場所よりずっと向こうのゴールへ。

「ばいばい」

日の光を浴びて金色に輝いて見える柚木君の髪の毛に、小さな声でお別れを言う。

ゴールした柚木君がこっちを見たような気がした。

でもきっと気のせい。

柚木君に返せなかった校章を胸につけ直す。

これくらいのわがまま、許してくれるよね?

男女デザインは同じだから、交換していることは私と柚木君しか知らない。

せめて、お守りとして持っていても、いいよね?

深呼吸をすると、私は前を向いて歩き出した。

中学2年、7月。

私の心と裏腹の晴れやかな空に、ちょっとだけ嫉妬した。

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