ボクは桜、キミは唄う
「今日、式見たらお母さん先に帰るからね。どうせ写真とったりなんだかんだ長くなるんでしょ?」

パタパタとめずらしく綺麗に髪を整えてる母親が、朝ごはん食べてる私に話しかける。

「あー、うん」

卵焼き、焦げてる。

そう思って箸をつけたとき

「あーそう言えば、言うの忘れてたけど、昨日家の前で男の子待ってたよ?」

お母さんが突然そんなことを言い出した。

「男の子?」

「うん。帰ってきたら家の前で立ってて、どうしたの?って聞いたら、楓花さんいますか?って。もう遅いからってお父さんが帰しちゃったんだけど」

「誰?」

私は高鳴る胸を押さえながら、名前を聞いた。

「えーっとねぇ。なんだっけなぁ?ねぇお父さん、何だったっけ?」

「知らん!」

「あー、お父さん、楓花のことを男の子が待ってたもんだから機嫌悪いのよ」

「いいから、名前、思い出して?誰?」

「うーんと……ほら、なんか爽やかなフルーツみたいな名前と思って」

「ど、どんな人?」

「背が高くて、前髪がこうふわっと長くてね、可愛い子。柑橘系のーうんと、ライム?ミカン?」

「……柚?」

私の期待を込めた問いかけに、お母さんが

「あー、そうそう!柚木君!それそれ」

と、手を叩いた。

同時に私は立ち上り、家を飛び出していた。





柚木君が、待っていてくれた。

待っていてくれた──


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