仇恋アベンジャー

この塚原恵一(つかはらけいいち)という男は、それから一切の労いをもすることはなく、極めて自分本位に私をモノにしていった。

私は胸にたぎる怒りや恨みを悟られないよう、初めての怖さを全面に表現する。

それなのに恵一は、私が怖がったり痛がったりする様子を楽しむように、ニヤニヤと笑いながら自らの長い髪を私の身体に滑らせた。

「マスター……」

そっと肩に触れると、恵一は表情をひとつも変えずに

「お前が誘ったんだろ?」

と冷たく言い放つ。

こんな時くらい、嘘でもロマンチックな言葉をかけてくれればいいのに。



私の初体験は苛立ちと共にこの男に捧げられた。




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