愛を教えて
室内は薄暗く張り詰めた空気が漂っている。

卓巳の声以外は、空気清浄機が発する小さな振動音だけだ。邸内の一番奥にあるこの部屋は騒音とは無縁の場所にあった。


「聖マリア女子大の学生さんなのですって。……色々と、教えてくださる方がいるのよ。わたくしの母校ですしね。親しみが湧くというものです」


皐月はそんなことを口にする。それは最初から計算ずくのことだった。だが今は、その計算が後ろめたい。

卓巳が話したことは、おそらく皐月ならすでに調査済みだろう。

だが、四年前のことは知らないはずだ。調べても出て来ないように、卓巳が金で握りつぶした。


「ひとつだけ、確認しておきたいことがあります。わたくしはあなたを信じていますよ。そうでなければ、あんな条件は出しません。その……万里子さんとは、どういったご関係なの?」


ここで卓巳は万里子の父に話した内容を繰り返した。


「もちろん、彼女に責任はありません。僕の要求に従っただけのことです。ただ、万一にも彼女を母のような立場にはしたくありません。どうか、結婚をお許しください」


皐月は結婚を条件にしながら、自ら花嫁候補を探してきて、卓巳に薦めることはしなかった。

それが怖くもあり、思惑が読めない理由でもある。


本当に結婚させたいのか? それとも、ひとり息子を奪った女の血を引く卓巳に、相続させるのが嫌になったのか?


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