愛を教えて
だが、今度は尚子が食い下がった。 


「では、お帰りになったら。続きは夜にいたしましょう」

「今日はこれから九州に出張します。帰宅は未定です。お話はまたの機会に。では、行って参ります」



この叔母たちを黙らせ、皐月をも丸め込まねばならない。


父母の無念を晴らすつもりなどない。会ったこともない高徳に恨むほどの感情もなかった。

総帥となるべく、迎え入れてくれた皐月に感謝すべきなのだろう。

彼女は卓巳を呼び戻すとき、藤原家のすべては卓巳のものだ、と言った。


(それを、今になって条件をつけるとは……)


悪意により取り上げられたものを、取り戻すだけだ。

皐月の、卓巳に対する祖母としての愛情、そんなものを今更知ったところで、心は動かない。

ただ、藤原家を掌中におさめるためだけの結婚。


それがどうしたことか……。


“万里子との結婚”が目的となりつつある卓巳だった。


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