愛を教えて
食堂で太一郎から庇ってくれた、あの熱さはどこに行ってしまったんだろう。
人の目があるから、芝居をしたのだろうか? だがそれなら、卓巳の部屋に入ってからの心配ぶりはいったい……。


卓巳ほどの男性なら相手は選り取りみどりのはずだ。
仮に、偽装であっても卓巳の妻になりたがる女性は多いと思う。

でも、妻となった女性と関係してしまい子供を授かれば、契約どおりに別れることは難しくなる。
卓巳の叔母ふたりが語るよりもっと、卓巳の心は複雑なのかもしれない。


デートで動物園や遊園地を訪れたとき、卓巳は家族連れに目を留めることが多々あった。
父親はおそらく彼と同年代。
万里子の場合は、子供にばかり視線が向いてしまうのだが、卓巳が見ていたのは母親のほうだ。
彼は目を細め、親の仇でもみつけたようなまなざしで睨んでいた。

万里子は驚き、何度も尋ねようと思ったのだが……。


――理由は聞くな。

と、卓巳の全身から発していた。


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