愛を教えて

(10)入籍

「本当によろしいんでしょうか?」


万里子は左手薬指で輝くエメラルドの指輪を見つめては、同じ言葉を繰り返していた。
これで四度目である。


「構わないと言ってるだろう。それとも、今から祖母のもとに戻り、あれは茶番でした、と言うつもりか? もう引き返せない。僕たちは結婚して、幸せな夫婦の姿を見せなければならないんだ!」


卓巳も律儀に四度目の返事をした。


「……あの」

「指輪を返す必要はない。君に渡したものだ。返してもらっても、どうせ渡す相手もいない。結婚する気も子供を持つ気もない! これで最後だ。君はもう口を開くな」

「……」


車内に気まずい沈黙が広がる。
一分が過ぎ、二分になろうかという辺りが卓巳の限界だった。


「……悪かった」

「口を開いても構いませんか?」


万里子らしくない、尖った口ぶりだ。


「だから、謝ってるだろう。そんな言い方は君らしくない」

「じゃ、私らしいってなんですか?」

「君は……笑っていればいいんだ」

「意味がわかりません。口を開かずにニッコリ笑っていろ、と? 私はお人形じゃありません!」


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