愛を教えて
「え?」

「信じると言ったんだ。……人前でなければ、怒らなかった?」


卓巳は自分の口から流れる声にビックリした。
万里子に媚びるような、信じられないほど優しく甘やかな声だ。


そして、卓巳の視線は万里子の桜色の唇に集中する。
淡いピンクのルージュが塗られたふっくらとした唇。誓いのキスはほんの一瞬だった。固く結んだ唇は緊張のためか少し冷たくて……。


――あの唇をもう一度味わいたい。いや、何度でも。少しでも開かせることができたら。万里子の甘い吐息を、自分の唇で感じることができたなら。


卓巳の手は万里子の頬に触れた。  

万里子に近づいたとき、ウエディングドレスの裾がふわっと揺れる。

彼女の母親が着たというドレスはAラインのシンプルなデザイン。しかも、スタンドカラーに長袖というクラシカルなものだった。
二十数年前、結婚式が正式な教会で挙げられたことは容易に想像できる。


「あの……卓巳さん」

「なんだい?」


左手が自然に万里子の腰に添えられ、卓巳は彼女の唇を見つめたままだった。


< 265 / 927 >

この作品をシェア

pagetop